●都内各所
セミが鳴き続けている、初夏の東京都内……
都内各所では、オイルショック並みの混乱が巻き起こっている。
地方自治体から派遣された水の供給車に群がる人々。
警官が大声で騒動を静めようとしているが、オバちゃん達には聞こえていない。
●マンションの一室
旦 那 「ただいまー」
マンションに、旦那と男の子がフゥフゥと息を切らしながら帰ってくる。
その両腕には、水が入ったポリバケツが握られている。
旦那と男の子、お風呂場を覗き込むと、主婦が手洗いでゴシゴシと洗濯を行っている。
旦 那 「なぁ。この水は何処に置けばいい?んだ」
主 婦 「それは台所に置いて。ヨッちゃんのバケツは、トイレに持っていってね」
旦那と男の子、汗を垂らしながら指定された場所へと水を運ぶ。
男の子 「(再びお風呂場を覗き)お母さん、汗をかいちゃった。お風呂に入りたーい」
主 婦 「ダメよ、お風呂だなんて……っ! 水をいっぱい使っちゃうでしょっ!」
男の子 「でも、汗臭いよー」
主 婦 「……わかった、わかったわよ! (タオルをバケツの水で濡らして)はい、これ使って」
男の子 「何これ?」
主 婦 「それで、身体を拭きなさい」
男の子 「えーっ?(不満に口を尖らせる)」
旦 那 「ワガママを言うんじゃない。水が使えないんだから仕方ないだろう(子供を諭し)それで、母さん。今日のお昼は何かな?」
主 婦 「ああ、台所のテーブルの上にあるでしょ」
旦那が台所のテーブルを見ると……その上には、乾パンと缶詰が置いてある。
旦 那 「……これだけ?」
主 婦 「しょうがないでしょ。水が使えないんだから、調理なんてできないのよ? あ、夜はコンビニ弁当だから」
旦 那 「はぁ……(溜息をついてうなだれる)」
●都内上空
都内上空にガンフェニックスとガンブースターが到着する。
●ガンフェニックス・操縦席
マリナ 「(端末の調整を行いながら)都内中、水が使えなくなって大混乱しているらしいわよ」
リュウ 「無理もねぇ……この暑さだからな……」
リュウ、夏の太陽を見上げる。
マリナ 「それもあるけどさ。『東京から水がなくなっちゃう』というデマが飛び交ってるみたいなのよ」
リュウ 「はぁ? 怪獣のせいで水が一時的に使えなくなっただけで、水はダムに大量に残ってんだぞ? 一体、誰がそんな好い加減なことを……」
マリナ 「知らないわよっ」
サコミズ 「《通信》多分、『水が使えなくなった』という不便さが、みんなの中に不安を作っちゃったんだろうね」
●司令室
リュウ 「《通信》どういうことスか?」
サコミズ 「今までは、蛇口を捻れば簡単に水にありつくことができただろう? みんな、水があることが当たり前なんだと思っていた。けれども、その『当たり前』のことがなくなってしまった……『存在していて当たり前』だったものが急になくなると、誰だって不安になっちゃうものだよ」
●ガンフェニックス
リュウ 「その不安が、デマに尾ひれをつけちまったってワケか……」
●ガンブースター・操縦席
ガンブースターの操縦席にも、リュウとマリナの会話が聞こえている。
ジョージ、眼下に視線を下ろす。
●スーパー前
スーパー前の水売り場に、主婦が群がっている。
主婦たちが持つ買い物カゴの中には、飲料水やジュースボトルなどが大量に入っている。
主婦1 「それ、私の指が先に触ったのよっ!」
主婦2 「何を言ってんのっ! 私が先に握ったのっ!」
二人の主婦が言い争っている隙をついて、別の主婦がその水を奪い取る。
主婦1・2「あーっ! 何を勝手に取ってるのよっ!」
主婦達、引っかきあい・掴み合いの喧嘩に発展する。
それぞれ、自分達のことしか考えていない。
●ガンフェニックス・操縦席
リュウ 「今の日本人は、テメェのことを考えるだけが精一杯で、譲り合いの精神を忘れちまってるからな……」
リュウ、深く溜息をつく。
サコミズ 「《通信》ガンフェニックス、作戦準備は整ったか?」
リュウ 「はい。いつでも、作戦に取り掛かれます」
●ガンブースター・操縦席
ガンブースターには、ミライとジョージが乗り込んでいる。
ミライ 「ガンブースター、準備完了しました」
●司令室
サコミズ 「よし、作戦開始だっ!」
一 同 「《通信》GIGっ!」
●ガンフェニックス・操縦席
リュウ 「(振り返り)マリナ、誘導音波を放射しろ」
マリナ 「了解。誘導音波、発射っ!」
●都内上空
ガンフェニックスの下部が開き、パラボラのようなものが現れる。
パラボラアンテナから誘導音波が発射され、川の水面が激しく波立つ。
●都営プール
都営プールの水も、同様に波立ち始める。
プールの表面に充満した、青緑色の液体が逆流を始める。
●司令室
テッペイ 「隊長! コスモリキッドの液状細胞が逆流を開始しました」
サコミズ 「……(モニターを食い入るように見守る)……」
●河川敷
川の中央が盛り上がり、噴水のように水を噴き出し、コスモリキッドが出現する。
●ガンフェニックス・操縦席
リュウ 「やっと、顔を見せがったな! 液体窒素弾、発射っ!(トリガーを引く)」
●河川敷
ガンフェニックスから、ミサイル(液体窒素弾)が発射される。
液体窒素弾、コスモリキッドの上空で破裂する。
白い氷の気体が舞い、コスモリキッドの体表が凍り付いていく。
●司令室
テッペイ 「やった! 成功だっ!」
サコミズ 「(すかさず)メテオール解禁っ! ガンブースター、ガトリング・デトネイター発射っ!」
●ガンブースター・操縦席
ミライ・ジョージ「GIGっ! (メテオールを起動させて)ガトリング・デトネイターを食らえっ!」
●河川敷
ガンブースター、六門のビーム砲から光線を発射する。
光線、凍りついたコスモリキッドの身体を完全に破壊する。
粉々に砕けたコスモリキッドの身体(氷塊)、河川敷に降り注ぐ。
●ガンブースター・操縦席
ジョージ 「やったぜっ!」
ミライとジョージ、拳を叩き合って喜ぶ。しかし……
ミライ 「(表情が一変して)ジョージさん、あれを見てくださいっ!」
ジョージ 「どうした? (前方に視線を移して)な、何だと……っ?」
●河川敷
バラバラにコスモリキッドの液状細胞が集まり、再び怪獣の姿に戻る。
コスモリキッド、長い舌をガンフェニックスに伸ばして機体を捕らえる。
●ガンフェニックス・操縦席
リュウ 「こなくそぉぉぉぉーっ!」
リュウ、操縦桿を握り締めるが、機体はピクリとも動かない。
マリナ 「ちょ、ちょっと! 何とかしなさいよっ!」
リュウ 「だったら、おまえが操縦しやがれ!」
リュウとマリナ、パニックの余りに罵り合いを始める。
●河川敷
ガンフェニックス、逃げ切ることができずに引き寄せられていく。
ガンブースター、レーザーを発射してコスモリキッドの舌を焼き切る。
ガンフェニックス、ガンブースターに助けられて何とか脱出に成功する!
コスモリキッド、咆哮を上げて液体に戻り、河川に溶け込んでしまう。
ガンフェニックス、後部から黒煙を噴きながら地上へと不時着する。
●ガンフェニックス・操縦席
マリナ 「(計器類をチェックして)ダメだ……ガンローダーのエンジンが、完全に焼ききれちゃってる……」
リュウ 「じゃあ、ガンフェニックスは飛べないってことかよ……(イライラとして)おい、テッペイ! アイツを凍らせたあとに粉砕すれば、コスモリキッドを倒せるんじゃなかったのか?」
●司令室
テッペイ 「はい。そのはずなんですが……」
リュウ 「《通信》そのはずって……おまえ、まさか適当に作戦を立てたんじゃないだろうな?」
テッペイ 「(ムキになり)そんなことはありませんっ! 今回の作戦は、ZATがコスモリキッドを倒した模様を忠実に再現したものなんですからっ!」
リュウ 「《通信》けど、復活してるじゃねぇかっ」
テッペイ 「それはそうなんですけど……(弱り果てる)」
司令室の扉が開き、ミサキが入ってくる。
ミサキ 「東京都の各団体から、怪獣はまだ倒せないのかという問い合わせが相次いでいます。一刻も早い対処をお願いします」
テッペイ 「そんなことを言われても……」
テッペイ、泣き出してしまいそうになる。
テッペイ 「くっそぉ〜(頭を抱えて)30年前に出現したコスモリキッドは、どうしてバラバラになった後、再生しなかったんだ……?」
テッペイ、クシャクシャと髪を掻きむしるが、答えが出てこない。
サコミズ、テッペイの肩をトントンと励ますように叩く。
そこへ、コノミからの通信が入ってくる。
コノミ 「《通信》隊長。じつは、気になることを聞いたんですけど……」
サコミズ 「気になる話?」
コノミ 「《通信》大利根ダムの係員さんのお話によると、5日ほど前に青白く発光する物体がダムの中へと落下したらしいんです」
サコミズ 「青白い発光体……?」
コノミ 「《通信》ええ」
○回想・5日前
ダムの巡回警備を行っていた係員、上空から落ちてくる物体を目撃する。
青白く輝く物体、ダムの水面に直撃! 大きな衝突音を立てる。
●司令室
サコミズ 「(振り返り)テッペイ。5日前、地球に隕石が落下したという報告はあるのか?」
テッペイ 「あ、えっと……ちょっと待ってください(端末を扱い)……あ、ありました! 5日前にGUYSスペーシーが、青白い発光体が地球へ落下する様子を確認しています」
ミサキ 「そうなんですか? 私は、そんな報告を受けていませんが……」
テッペイ 「ミサキさんが知らなくても当然です。その物体の直径は、推定で20センチ程度しかない、とても小さなものだったんですから。その程度のものなら、毎年のように地球へ何十・何百と降り注いでますし……イチイチそれを報告していたら、キリがありませんからね」
サコミズ 「確かにな……」
テッペイ 「それに、そのぐらい小さな隕石だったら、大抵は大気圏で燃え尽きちゃって地表に到達しないんですよ。だから、GUYSスペーシーも敢えて見逃したんだと思います」
サコミズ 「しかし、隕石は燃え尽きることなく、大利根ダムへと落下した……そして、コスモリキッドが現れた……」
テッペイ 「(考え込み)もし、その隕石にコスモリキッドの液状細胞が付着していたとすると……」
●都内上空
ガンブースター、上空を旋回している。
●ガンブースター・操縦席
ミライ 「(眼下を見下ろして)……ジョージさん! 下を……川を見てくださいっ!」
ジョージ 「なに? ……あっ!(驚愕する)」
●河川敷
不時着したガンフェニックスの傍には、リュウとマリナの姿がある。
リュウ 「(驚愕)何だよ、これ……」
マリナ 「川が……上流に向かって流れてる……」
川の水、ビデオの巻き戻しのように遡っている。
●司令室
その様子は、司令室のモニターでも確認されている。
ミサキ 「どういうこと? これは……」
テッペイ 「(端末で調べて)あれは、川の水じゃない……コスモリキッドの液状細胞だ……」
サコミズ 「コスモリキッドの液状細胞が、川の水を押し上げながら逆流しているということか……」
テッペイ 「この川を遡った場所にあるものは……大利根ダム……(ハッとして)そうかっ! 鮭の産卵だ……っ!」
サコミズ 「鮭の産卵……?」
ミサキ 「どういうことですか?」
テッペイ 「大利根ダムに落下した隕石をちゃんと分析したわけではないので、断言することはできませんが……僕の予想では、その隕石にコスモリキッドの卵……もしくは、細胞が取り付いていたんだと思うんです。そして、大利根ダムから水分を得ることにより、コスモリキッドが誕生した……」
ミサキ 「水を得ることで……?」
テッペイ 「はい。砂漠地帯には、現実にそのような魚がいるんですよ。雨季が訪れるまで、何ヶ月……いや、何年も卵のままで砂の中に眠り続けている魚が……」
サコミズ 「なるほど……コスモリキッドも隕石に取り付き、水を求めて長い間、宇宙を漂流していたということか……」
テッペイ 「ええ。なにせ、身体中が液状細胞で構成されている怪獣ですからね。水がないと、アイツは活動することができないんです。そして、次の目的を果たすために、大量の栄養分を求めて都心部へと降りてきた……」
●河川敷
リュウとマリナ、テッペイの説明を聞いている。
リュウ 「次の目的? おい、テッペイ。どういうことだ?」
マリナ 「テッペイくん。さっき、鮭の産卵と言ってたわよね? まさか……」
●司令室
テッペイ 「(頷き)あくまでも僕の仮説ですが、コスモリキッドは人間を襲うことで栄養分を得て、その後生まれた場所へと戻り、新たな仲間を増やそうとしているんだと思います」
●河川敷
マリナ 「仲間を増やす……っ?」
リュウ 「おいおい、冗談じゃねぇぞっ!」
リュウとマリナ、顔を見合わせる。
●木造アパート
木造アパート、猛烈な炎を噴き上げている。
野次馬1 「タバコの不始末だってよ」
野次馬2 「水が使えないってときに……っ。バカだねぇ」
野次馬の前では、消防隊員や近所の住民が消火活動を行っている。
水を使用することができないため、消防車は役目を果たしていない。
消防隊員や地域住民、消火器を用いたり、砂をかけたりして火を消している。
だが、延焼は抑えきれない。
●河川敷
マリナ 「たった一匹だけで、東京中が大混乱してるってのに……」
リュウ 「(冷や汗を流し)このうえ、更に大勢のコスモリキッドが誕生してしまったら……」
●ガンブースター・操縦席
ミライ 「本当に東京の水は使えなくなってしまう……」
ジョージ 「…………(歯を食いしばり)ミライっ! コスモリキッドを倒すぞっ!」
ジョージ、そう言うなり、操縦桿を引き倒す。
ミライ 「ジョージさんっ! コスモリキッドを倒す作戦があるんですかっ?」
ジョージ 「ねぇよ、そんなもんっ!」
ミライ 「ないって……それじゃあ、どうしようもないじゃないですかっ!」
ジョージ 「だからって、黙って見てられないだろっ!」
ジョージ、険しい顔つきで叫び、逆流する青緑色の川面に向かってビームを打つ。
●河川敷
ガンブースターから発射されたビームが、川面に命中する。
しかし、水飛沫が上がるだけで、水の逆流は弱まらない。
リュウ 「(ガンブースターを見上げて)ジョージ……」
リュウ、拳を握り締める。
リュウ 「マリナ! 俺達も行くぞっ!」
マリナ 「行くって……ガンフェニックスはもう……っ!」
リュウ 「被弾したのは、ガンフェニックスの後部……つまり、ガンローダーだけだっ! ガンウィンガーだけならまだ戦えるっ!」
マリナ 「そっか……っ! ガンローダーを切り離せばいいんだっ!」
リュウ 「そういうこった!」
リュウとマリナ、ガンウィンガーに乗り込んでいく。
●ガンブースター・操縦席
ジョージ 「このっ! このっ!(更にビームを発射する)」
●川面・中流
青緑色の川の逆流、中流にまで押し寄せている。
滝などがあろうとも、川の水の逆流現象は衰えようとしない。
ガンブースター、何度も何度も諦めずに攻撃を繰り返している。
●路地(中流付近)
コノミ、川面を見下ろす鉄橋の上まで走っていく。
鉄橋の上に辿り着くなり、メモリーディスプレイの通信回線を開く。
コノミ 「隊長、テッペイさんっ! 指定されたポイントに到着しましたっ!」
コノミの片手には、ミクラスのカプセルが握り締められている。
●司令室
テッペイ 「コノミちゃん! ミクラスを呼び出して、川面に電流を放電させるんだっ! 広範囲に散らばっていない今なら、ミクラスの放電である程度のダメージを与えることはできるっ!」
●中流
コノミ 「GIGっ!(カプセルを装填し)ミクラス、お願いっ!」
緑色の粒子が空中に放出され、それが一箇所に寄り集まる。
粒子がミクラスの姿を生み出し、その巨体が川にザブンと落ちる!
ミクラスの着地と共に、辺りに大きな砂煙と水飛沫が舞い散る。
ミクラス 「ゴァァァァァァァァァー!」
ミクラス、雄叫びを上げて川面を睨みつける。
逆流する川面の一部に、青緑色に染まった水が見え隠れしている。
ミクラス、鼻息を「ふんっ!」と強く鳴らすと、川面に向かって電流を放電を行う。
放電攻撃により、コスモリキッドが再び姿を現す。
ミクラス、コスモリキッドに向かっていく。
しかし、肉体が液状であるコスモリキッドには、ミクラスの打撃は通じない。
ミクラス、あっという間に追い詰められてしまう。
コスモリキッド、ミクラスの角に舌を巻きつけ、青緑色のガスを放出する。
コノミ 「ミクラスぅぅぅぅぅぅーーーっ!」
ミクラス、緑色の粒子になって消滅する。
コスモリキッド、ミクラスの消滅に勝利の雄叫びを上げる。
そして、鉄橋の上に立っているコノミを睨みつける。
コノミ 「…………っ!」
コノミ、脅えたように後ずさる。
そこへ、ガンウィンガーとガンブースターがやってくる。
●ガンブースター・操縦席
ジョージ 「コノミが危ないっ!」
ジョージ、コノミを救おうと、ガンブースターの機体を急降下させる。
●中流
ガンブースターからビームが発射される。
しかし、ビームはコスモリキッドの身体を素通りしてしまう。
コスモリキッド、攻撃されたことにより、その標的をガンブースターに変更する。
太い腕を振り回し、ガンブースターの左翼を叩きつける。
ガンブースター、黒煙を噴いて落下していく。
コノミ 「(青ざめて)ジョージさんっ! ミライ君っ!」
●ガンブースター・操縦席
ジョージ 「くっそぉぉぉぉーっ!」
ジョージ、操縦桿を握り締めて機体を何とか立て直す。
●中流
ガンブースター、フラフラとなりながら不時着する。
●ガンブースター・操縦席
ジョージ、不時着の衝撃によって気を失ってしまっている。
ミライ 「ジョージさんっ! ジョージさんっ!」
ミライ、ジョージを揺り動かすものの、目を覚ます気配はない。
ミライが上空を見上げると、ガンウィンガーがコスモリキッドに攻撃を行っている。
やはり、ガンウィンガーの攻撃もコスモリキッドには通用していない。
ミライ、左腕のメビウスブレスを天高くかざす。
ミライ 「メビウースっ!」
ミライの身体、光に包まれて……ウルトラマンメビウスに変身を遂げる!
コスモリキッドの前方に、メビウスが出現する。
●ガンウィンガー・操縦席
マリナ 「(眼下を見下ろして)メビウス……」
リュウ 「(険しい表情で)来てくれたか……けど、いくらメビウスでも……」
●中流
メビウス、コスモリキッドに敢然と向かっていくが、パンチもキックも通用しない。
コスモリキッド、メビウスに突進してくる。
メビウス、コスモリキッドの突進を押し止めようと腕を伸ばす。
だが、その腕はコスモリキッドの体内へズブズブと飲み込まれてしまう。
メビウス 「ウ、ウゥゥ……っ!」
メビウス、コスモリキッドから腕を引き離そうとするが……抜けない!
コスモリキッド、体内にメビウスの腕を取り込んだまま、長い舌を伸ばす。
メビウス 「ウアァァァァーっ!」
首を締め付けられが、腕を動かせない状況では抵抗することができない。
メビウスのカラータイマーが音を立て始める。
●ガンウィンガー・操縦席
マリナ 「このままだと、メビウスが……っ!」
リュウ 「(チッと舌打ちして)テッペイ! 何か方法はないのかっ!」
●司令室
テッペイ 「(必死に調査を進めている)待ってください! 今、調べてるんですからっ!」
●中流
不時着したガンブースターに、コノミが駆け寄ってくる。
コノミ、操縦席を覗き込んで、気を失っているジョージを見つける。
コノミ 「ジョージさんっ? しっかりしてっ!(ジョージを揺り動かす)」
ジョージ 「う、うん……(意識を取り戻し)こ、コノミ……」
ジョージ、身体を起こそうとする。
だが、脳震盪を起こしているせいか、すぐに起き上がれない。
コノミ 「ジョージさん、さぁっ!(手を差し出し)私の手に捕まってっ!」
ジョージ、差し出された手に少し戸惑うが……
ジョージ 「グラシャス(笑顔でコノミの手を取る)」
●司令室
テッペイ、必死でコスモリキッドの分析を進めている。
テッペイ 「(嬉々として)そうか、わかった! 核〔コア〕だっ! 核〔コア〕を破壊すればいいんだっ!」
テッペイのコンピューターのモニターに、オコリンボールの映像が映し出されている。
●中流
ジョージ 「(メモリーディスプレイを手にして)核を破壊しろ? どういうことだ?」
テッペイ 「《通信》ドキュメントUGMに記録されている、オコリンボール……ここに、コスモリキッドを倒すヒントが隠されていました」
ジョージ 「オコリンボール? それ、怪獣の名前か?」
テッペイ 「《通信》(頷き)この怪獣も、コスモリキッドと同様に無数の細胞が集合・合体することによって誕生しました。そして、この怪獣は核〔コア〕を破壊されたことによって絶命している……ということは……」
コノミ 「コスモリキッドの核〔コア〕を破壊すれば……」
ジョージ 「アイツは、二度と再生しないってことかっ!」
●司令室
テッペイ 「(頷き)30年前に出現したコスモリキッドもきっと、ZATの攻撃が核〔コア〕に偶然命中したことによって倒されたに違いありませんっ!」
●中流
ジョージ 「なるほどな……!」
ジョージ、コスモリキッドを見据える。
ジョージ 「それで、コスモリキッドの身体のどこに、その核〔コア〕は存在しているんだ?」
テッペイ 「《通信》わかりません」
ジョージ 「……わからない?」
テッペイ 「《通信》さっきも話したように、コスモリキッドの身体は、液状細胞の集合体です。核〔コア〕はコスモリキッドの身体中を流動し続けていて、一定の場所には留まっていないんですよ」
ジョージ 「(イライラしたように)それじゃあ、どうしようもないじゃないかっ!」
そうしている間にも、メビウスのカラータイマーの点滅は早まっていく。
テッペイ 「《通信》いえ、ジョージさんなら、核〔コア〕を撃ち落とすことは可能です」
ジョージ 「どういうことだ?」
テッペイ 「《通信》メテオールショットを使用するんです」
ジョージ 「メテオールショットを……?」
ジョージ、専用の銃・メテオールショットに視線を移す。
●司令室
テッペイ 「僕が以前、メテオールショットには自動追尾機能が備わっていると説明したことを覚えてますか?」
ジョージ 「《通信》ああ。GUYSメットで読み取った脳波の電気信号を元に、メテオール弾が標的を追いかけるってヤツだろ?」
テッペイ 「(頷き)さっきも言ったように、コスモリキッドの核〔コア〕は、その体内で縦横無尽に動き回っています。目に見ることができず、しかも自由に動き続けている標的を確実に仕留めるには、メテオールショットの自動追尾機能を利用するしかないんです」
●中流
テッペイ 「《通信》ただし、そのためには『絶対にその標的を撃つ』という強いイメージ……そして、ジョージさんの並外れた動体視力の二つが揃わなければなりません!」
ジョージ 「……わかった」
ジョージ、銃を構えようとするが……
ジョージ 「うぐっ……!(顔を苦痛に歪め右肩を抑える)」
コノミ 「ジョージさん……? どうかしたんですか?」
ジョージ 「(脂汗を流しながら)い、いや……なんでもない……」
コノミ 「(違和感を感じて)ちょっと、肩を見せてくださいっ!」
ジョージ 「お、おいっ!」
コノミ、ジョージの制服を無理やり脱がせる。
コノミ 「やっぱり……っ!」
ジョージの右肩、赤く炎症を起こしている。
コノミ 「こんな肩で、銃を構えられるわけがないじゃないですかっ!」
ジョージ 「(フンと鼻息を鳴らし)これぐらいの怪我、スペインリーグでは日常茶飯事だったぜ」
コノミ 「でも……っ!」
ジョージ 「それに、俺がやらなきゃ……誰がアイツを倒せるんだ……っ!」
ジョージ、痛みに震える腕を持ち上げ、必死に銃を構えようとする。
ジョージ 「コノミや隊長の言うとおりだ……っ。俺は、水が簡単に手に入るという状況に慣れちまってた……水のありがたみってヤツを完全に忘れちまってた……っ! ホント、甘くて最低の考え方だよ……っ」
コノミ 「…………」
ジョージ 「(コスモリキッドを睨みつけて)アイツを倒さなければ、東京に水は戻ってこないんだ……だから、アイツを倒す……っ! 絶対に倒して……水を取り返してやる……っ!」
コノミ 「ジョージさん……」
コノミ、ジョージの言葉に笑顔をこぼす。
コノミ 「(腕を支えて)私が、ジョージさんの右手を支えます! ジョージさん、狙ってください!」
ジョージ 「……コノミ(笑顔を見せて)よぉし、その手をもう少し上に上げてくれ!」
コノミ 「はいっ!」
ジョージ 「次は、右へ20度ほど傾けるんだ!」
コノミ 「わかりましたっ!(調節する)」
ジョージ 「よし、いいぞ……そのまま、俺の腕が動かないように固定してくれ……」
ジョージ、コノミの手を借りて、コスモリキッドに狙いを定める。
ジョージ 「隊長、メテオールの使用許可をっ!」
●司令室
ジョージの言葉に、サコミズが立ち上がる。
サコミズ 「メテオール解禁っ!」
●中流
ジョージ、瞳を閉じて……コスモリキッドの核をイメージする。
ジョージ 「メテオール弾、発射っ!」
光線、ジグザグに折れ曲がりながら、コスモリキッドへ突進していく。
命中する寸前で軌道修正! 獲物を探すようにコスモリキッドを周回する。
やがて、狙いをつけたように、コスモリキッドの横腹に命中する!
コスモリキッドの核、メテオール弾によって完全に打ち砕かれる!
コスモリキッド「グアアアアアアーっ!」
コスモリキッド、悲鳴を上げて後退する。
メビウスの腕、コスモリキッドの身体からズブズブと抜け出る。
コスモリキッドの横腹から、液体がドロドロと溢れ出ている。
その身体は、再生する様子は見られない。
メビウス、十字を組んで……メビュームシュートを発射っ!
コスモリキッド、完全に消し飛んでしまう。
メビウス、ジョージとコノミを見下ろして、親指を挙げる。
ジョージとコノミ、メビウスに笑顔で応える。
●司令室
一同、司令室に戻ってきている。
テッペイ、コンピューターに向き合って、隕石の分析結果を見ている。
テッペイ 「やっぱり、大利根ダムに落下した隕石から、コスモリキッドの細胞と同じDNAが採取されました」
サコミズ 「そうか……」
リュウ 「じゃあ、アイツは宇宙から来た怪獣だったってことだな……」
テッペイ 「ええ……」
テッペイ、何かを考え込んでいるような様子で頷く。
マリナ 「どうしたの、テッペイくん? 浮かない顔をして……」
テッペイ 「あ、いや……宇宙から隕石に乗って来たんだとしたら、随分と効率悪いなと思って……」
サコミズ 「効率が悪い……?」
テッペイの言いたいことがわからず、一同は首を傾げる。
テッペイ 「コスモリキッドが、繁殖目的で地球に訪れたことは間違いないと思います。でも、繁殖目的ならもっと効率の良い子孫の増やし方があると思いませんか?」
ミライ 「どういうことです?」
テッペイ 「だって、考えてもごらんよ。コスモリキッドは、隕石に乗って長い間、宇宙を漂っていたんだよ? 水のある惑星に辿り着くまで、ずっと……」
リュウ 「だから、何だって言うんだよ? 早く結論を言えって……!」
リュウ、苛々したように答えを急がせる。
テッペイ 「まぁ、聞いてください。宇宙には無数の天体があるわけですが、地球のように『水』に恵まれた天体はほとんど存在しない……そのことは知ってますよね?」
一同、大きく頷く。
テッペイ 「つまり、隕石に乗って宇宙空間をただフワフワと漂っているだけじゃ、コスモリキッドが繁殖できる『水』のある天体に辿り着く可能性は限りなくゼロに近いんですよ。灼熱の星に落ちたら液状細胞ごと蒸発してしまうし、氷点下の星では凍てついてしまって誕生することすらもできない……」
マリナ 「あ、そうか……」
コノミ 「確かに、非効率的ですよね……」
ミライ 「(ハッとして)それじゃ、まさか……!」
テッペイ 「(頷いて)元々別の惑星に生息していたコスモリキッドの卵を、何者かがあの隕石に乗せて、地球へと差し向けたんじゃないかと思うんです」
マリナ 「何者かって……宇宙人?」
コノミ 「まさか、またヤプールとか……?」
テッペイ 「それは、わかりません……ただ僕は、コスモリキッドが地球に来たのは、とても偶然だと思えないんですよ……」
コノミ 「そんな……」
リュウ 「じゃあ、またコスモリキッドが送り込まれてくる可能性があるってことかよ……?」
テッペイの一言に、一同は黙り込んでしまう。
そのとき、司令室の扉が開いて、ジョージが入ってくる。
ジョージ 「みんな、ジョージ特製・スペシャルコーヒーの第二弾を淹れてきたぞっ!」
ジョージの明るい声に、暗くなりかけた司令室の空気が一変する。
ジョージ 「さぁ、飲んでみてくれっ! 今度は絶対に美味いはずだからなっ」
ジョージ、ニコニコとマグカップを配っていく。
リュウ 「(受け取り)すっげー、自信たっぷりだな」
リュウの言葉に、ジョージは「ふふん」と白い歯を見せて笑う。
リュウ 「それじゃあ、さっそく……」
マリナ 「飲んでみましょうか」
一同、思い思いにコーヒーを口に入れる。
ミライ 「んんっ?」
テッペイ 「美味しいっ!」
マリナ 「この前のコーヒーの味とは全然違うわっ!」
サコミズもコーヒーを飲んでみて、
サコミズ 「んんっ! これは、美味しい! たいしたものだ……っ」
こだわりを持つサコミズも、ジョージの特製コーヒーを絶賛する。
ジョージ 「(笑って)じつはですね、スペインリーグで知り合った知人から、ヨーロッパでも1・2を争う名水を送ってもらったんですよ。俺も隊長のように、水にもこだわりを持とうかと思いまして」
サコミズ 「……(微笑んで頷く)……」
そして、最後にコノミへマグカップを手渡す。
ジョージ 「コノミ。おまえも飲んでみてくれよ」
コノミ 「あ、はいっ(一口飲んで)……ほんと、美味しいっ!」
ジョージ 「よっしゃぁぁーっ!」
ジョージ、コノミの賛辞にガッツポーズを取る。
ジョージ 「これで、アサミに美味いコーヒーを味わわせてやれるぞっ!」
マリナ 「アサミ……?」
ジョージの一言に、一同は怪訝そうに表情をしかめる。
テッペイ 「アサミって……異次元物理学の権威・アサミ博士のことですか?」
ジョージ 「そのとおり! じつはさ、この雑誌に『今時の男性は、料理やコーヒーなどが美味く作れなければモテない』と書いてあったんだよ。だから、せめてコーヒーぐらいは上手に淹れられるようになろうと思ってな」
リュウ 「そして、その美味いコーヒーをアサミ博士に味わわせて……」
コノミ 「改めて、自分に惚れ直させようという魂胆だったんですか?」
ジョージ、満面の笑みで頷きを返す。
マリナ 「(ワナワナと)そういう腹積もりだったの……っ?」
マリナ、ヤキモチのせいか、形相が厳つくなっている。
ミライ 「でも、確か……アサミ博士は……」
リュウ 「コーヒーが苦手じゃなかったっけ?」
ミライとリュウ、コーヒーを飲みながら呟く。
ジョージ 「え……? (サコミズを見て)そう……なんですか?」
サコミズ 「(頷き)コーヒーの匂いが漂っているだけで、すぐに怒り出しちゃうんだよ」
ジョージ 「じゃあ、俺が勉強したことは……」
コノミ 「(ボソッと)まったくの無駄だったってわけですね……」
コノミ、リムを撫でながら、ダメだしするように呟く。
ジョージ 「そんなぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!」
ジョージ、悲しみの叫びを上げる。
■次回予告■
少年の母親「大丈夫だから。お父さん、絶対大丈夫だから」
コノミ 「まるで、銀色のお城みたい」
テッペイ 「小熱源は7つです」
マリナ 「7つ?」
ミライ 「8つ反応がありますよ?」
マリナ 「君……避難所の!」
ユウヤ 「メビウス……負けちゃ嫌だよ」
銀の城の翼帝
リュウ 「届けるんだよ!……メビウスに炎を!」
ご期待下さい。