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当企画『ウル博オリジナル版・ウルトラマンメビウス』は、円谷プロ作品「ウルトラマンメビウス」の番外編として執筆されております。
そして今回のお話は、第34話「故郷のない男」から第37話「父の背中」の間を想定した物語となっております……
●勇壮なファンファーレと共にメインタイトル
●都会
そこかしこに、クリスマス商戦を意識したPOPが張られている。
が、街を行きかう人々の装いは、冬にしてはやや軽装。たまにコートを着た者も見られるが汗をかいているものも多く、脱いで手にかけている者はもっと多い。
40代前半くらいの男1と、20代後半から30代前半くらいの男2の、2人のビジネスマンが並んで歩いている。
雲が通り過ぎたのか、街に一瞬影が落ちて、そして元のように明るくなる。
男 1 「(歩きながら)しかし、いい天気だなぁ」
男 2 「(並んで歩きながら)暖かくて、12月だなんて信じられないくらいですよ」
男 1 「……ん?」
いつのまにか、さらさらと白い粉のようなものが降っている。
男 1 「雪……か?」
男 2 「ホワイトクリスマスには、少し早いですねぇ」
男 1 「どうした、年甲斐も無くはしゃいで」
男 2 「今年は、息子と一緒に過ごしてやれるんで楽しみなんですよ、クリスマス」
男 1 「ユウヤ君だっけ?いくつになった」
男 2 「6つです。最近だんだんやんちゃになってきて、まったく誰に似たんだか(笑)」
男2、すこしウキウキと2、3歩歩く。が、男1、追ってこない。
男 2 「どうかしました……?」
男2が振り向くと、男1が倒れて気を失っている。
そのまま画面がパンしていく。道にバタバタと倒れ伏す人々の群れ、群れ、群れ。
男 2 「!!」
思わず息を呑む男2。と、そのまま急激に咳き込み始め、そのままくずおれてしまう。
先ほどのように、街に一瞬だけ影が落ちる。
男2、咳き込みながらも顔を上げる。
●ビルの基部(男2視点)
白い糸のようなものが垂れ下がっている。
画面、パンして順に上層階を映す。階を上がれば上がるほどまとわりつく白い糸の量が増え、さらに最上階付近ではビルとは思えぬほど形が崩れ、尖塔の様相を呈している。
白い糸が光を乱反射し、ビル全体が銀色に輝いて見える。
男2 「(息も絶え絶えに)あれは……」
●オープニング
ヒビノ ミライ
アイハラ リュウ
カザマ マリナ
イカルガ ジョージ
アマガイ コノミ
クゼ テッペイ
サコミズ シンゴ
ミサキ ユキ
サワザキ ユウヤ
ユウヤの父
ユウヤの母
避難所の主婦
脚本/ゆうた人
始祖怪鳥
テロチルス
登場
●避難所前
夕景。
小学校に上がるか上がらないかくらいの少年が、銀色の城を見つめている。
母 親 「(後ろからそっと近づいて)ユウヤ、ここにいたの?」
ユウヤ 「(突然の声に飛び上がりつつ)……うん」
2人、しばし夕日を照り返す城を見つめる。
ユウヤ 「お父さん、まだ?」
ユウヤの母「……お仕事なのよ。さ、中入ろ。寒くなるよ」
ユウヤ 「でも、会社の近くにお城できちゃったよ。学校だってお休みなのに、帰ってこないの、ヘンだよ」
ユウヤの母「学校と会社は違うのよ。もう中入りなさい。夕ご飯配られてるわよ」
ユウヤ、黙りこくったまま。
ユウヤの母「大丈夫だから。お父さん、絶対大丈夫だから」
ユウヤ 「……うん」
ユウヤ、従う。
●大病院の駐車場
おびただしい数の人々がおり、時折救急車をはじめとした特殊車両が駆け込んでくる。
ある人は毛布に包まってうずくまり、ある人は地面に横たわり、またある人は真っ赤に腫らした目を押さえて列に並んでいる。
調査に来ているジョージとマリナ。マリナ、メモリーディスプレイを取り出す。
ジョージ 「(メモリーディスプレイを覗き込んで)隊長、現地に到着しました」
サコミズ(声)「状況は?」
マリナ 「(辺りを見回して)……非道い!」
●CREW GUYSディレクションルーム
空中投影装置アルバートビジョンを採用した、前面メーンモニタに映し出される惨状を見つめるサコミズ、テッペイ、コノミ、ミサキ。
テッペイ 「まるで毒ガステロの後だな。(ミサキに)被災地域の封鎖は完了してるんですか?」
ミサキ 「本日未明、当該地域に突如出現した巨大な繊維構造体を中心に(メーンモニタに、白い糸に包まれて変貌したビルがロングショットで写される)、半径5kmにわたって封鎖しました。市民の避難もほぼ終わっています。ただ……」
サコミズ 「行方不明者が数名出た、ということですか?」
ミサキ 「その通りです。現在、捜査チームを派遣して探しています」
コノミ 「でも、なんだかきれいですね……まるで、銀色のお城みたい」
サコミズ 「これが、今回の異変の原因だと?」
ミサキ 「繊維構造体を構成するものと同じ物質が降り注いだ地域に、被害が集中しており、おそらく、大気と触れることで、何らかの毒性を発揮するものと思われます。現在、GUYS化学班が、分子構造の解析と、中和剤の開発を進めています」
サコミズ 「わかりました。テッペイ、コノミは、過去のアーカイブと照合して、この繊維構造体の正体と対処法を探るんだ。ジョージ、マリナは、現地で、被害にあった方から聞き取り調査」
4人 「GIG!」
サコミズ 「リュウ、ミライ」
●GUYSガンウィンガーコクピット内
ミライ 「こちらミライ、まもなく目標地点に到着します」
サコミズ(声)「君達には上空から目標を観察後、3Dスキャニングで内部を探って欲しい。取得した情報は順次こちらに送ってくれ」
リュウ、ミライ「GIG!」
サコミズ(声)「まだ今回の事件の全貌がつかめない。十分に注意すること、いいね」
うなずく二人。
通信が切れる。
リュウ 「(窓の外をのぞきつつ)しかし、こんだけのもんを一晩のうちにつくっちまうなんて、敵は一体どんなやつなんだ?」
●銀の城の麓
人っ子一人いない。まるでゴーストタウンである。
画面、パンアップ。銀の城が陽光を反射して煌いている。
その上空、太陽を横切って飛ぶガンウィンガー。
●大病院
病室の戸は硬く閉じられ、「面会謝絶」の札がかけられている。
その前で立ち尽くすジョージとマリナ。
ジョージ 「とてもじゃないが、会って話すのは無理そうだな」
マリナ 「これで、構造体から半径100m以内で発見された人たちは、全員……」
ジョージ 「惨いことしやがる!」
無言で廊下を歩く2人。
マリナ 「どうする?このままじゃ、全然敵の正体つかめないわ」
ジョージ 「確か、隣の体育館が、避難所になってたよな」
マリナ 「避難所、って……直接被害に遭ってない人に会ってどうするつもり?」
ジョージ 「(マリナを振り返って)目先のボールを追っかけてるだけじゃ、試合には勝てない。一歩引いてこそ見えてくることもある」
マリナ、うなづく。
●避難所前・駐車場
救援物資配給の帰りなのか、先ほどの少年の母親がとぼとぼと歩いている。
主 婦 「サワザキさん!」
母親が振り向くと、主婦が歩み寄ってくる。
ユウヤの母「(会釈して)こんにちは」
主 婦 「旦那さん……まだ」
こっくりとうなづく母親。
ユウヤの母「うちの子にも、感づかれちゃったみたい」
主 婦 「まだ話してないの?」
ユウヤの母「(うなづき)ショックかな、と思って……でもホントは、私が信じたくないだけなのかもしれない」
しばし無言で歩く2人。
主婦、元気付けるようにニカリと笑う。
主 婦 「気休めにしかならないですけど、望みは捨てないで。まだ決まったわけじゃないんだから」
ユウヤの母「ん……ありがと」
主 婦 「いえいえ」
●ディレクションルーム
テッペイが、目の前のモニターとにらめっこしながら、頭をかきむしっている。画面には、ゲスラ、モグネズン、ケムラーなど、毒をもつ怪獣のアーカイブが次々と表示されている。
サコミズ 「(コーヒーを差し出して)どう?」
テッペイ 「アーカイブに記録されている怪獣の中から、毒を武器にする怪獣を抽出して調べているんですが……持っていた毒素に関するデータとの照合にてまどってます」
サコミズ 「コノミちゃんのほうは?」
コノミ 「(コーヒーを受け取って)あ、ありがとうございます。事件発生の直前にGUYSオーシャンが、高速で飛行する何かをレーダーに捉えているんです。でも、すぐに見失っちゃったみたいで……こっちにも連絡くれてたんですけど、そのときちょうど銀色のお城が東京の真ん中に出現して、近くで人が倒れてるって情報が入って」
テッペイ 「(横で聞いていて考えている)となると、やっぱりその"飛行する何か"が今回の事件に関わっていそうだな。その、GUYSオーシャンが観測した飛行物体の航路と繊維構造体とを結んで、そこから、その"何か"がどこから来たのか、範囲を絞り込めないかな?相手の出どころさえわかれば、正体もつかめるかもしれない」
コノミ、うなづいて手元のキーボードを操作。メーンモニタに投影される日本地図。
東京に光点がひとつ置かれ、そこから南東に向かって点線が延びている。その点線が、ところどころで太い実線になっている。その実線の最後からも点線が延びているが、程なくその点線は扇状に分かれている。
コノミ 「早すぎて、GUYSオーシャンのレーダーでも、航路を完全にカバーできなかったみたいなんですけど……」
テッペイ 「この扇状の範囲内が、敵の“出身地”と考えられますね」
サコミズ、考え込む。
と、メモリーディスプレイのコール音。サコミズ、メモリーディスプレイを取り出す。
サコミズ「サコミズだ」
●ガンウィンガーコクピット
ミライ 「こちらミライ。目標のスキャニングデータがとれたので、今から送信します」
サコミズ(声)「了解」
突然、耳障りな甲高い音がかすかに響く。まるで、何かの啼き声。
リュウ 「(ふっと顔を上げて)ミライ!今の……」
ミライ 「ええ、僕にも聞こえました」
リュウ 「(眼下の城を眺め)いったい、何が潜んで……(画面が揺れ始める)うおおおおっ!」
●ディレクションルーム
メーンモニタに、ウィンガーから送信されたスキャンデータが表示されている。サーモグラフィーでは、城の中腹に、温度の高い塊があるのが見える。その他に、大きな塊と比べると少し低めの温度の点が、いくつか見える。
テッペイ 「やっぱり、怪獣の仕業か……でも、この周りの熱源はいったい」
突然、データに割り込むようにリュウからの通信がメーンモニタに映される。
リュウ 「隊長!今、構造体から何かが!」
サコミズ 「落ち着け!相手がどこへ向かっているかわかるか?」
リュウ 「今全速力で追っかけてますけど……くそっ、なんて速さだ!」
サコミズ 「コノミ!」
コノミ 「レーダーでも捉えてます!このまま行くと……」
コノミの見ている画面には、「UNKNOWN」と表示された高速で動く光点と、それを追いかける「WINGER」の光点が表示されている。
「UNKNOWN」の進路の延長線上には2つの光点が。それぞれ、「MARINA」「GEORGE」と表示されている。
●避難所
一見普通の体育館だが、周囲にいくつもテントが張られ、疲れた様子の人々がたむろしていて雑然とした雰囲気。
ジョージとマリナが、少年の母親に聞き込みをしている。人々はGUYSの様子をちらちらと横目で伺いながら歩いている。ある人は、有名人を目撃した好奇の目で、またある人は疲弊したところに訪れた迷惑ものといった目で。遠くで、先ほど母親と会話していた主婦が、どこから用意したのかサイン色紙とマジックを握り締めてらんらんと輝く目でジョージを見つめている。
ユウヤの母「本当に、何の前触れもなかったんです。気付いたら、いつのまにかあんなものが……」
ジョージ 「いつのまにか?」
ユウヤの母「はい……あの、やっぱり、怪獣のせいなんでしょうか」
マリナ 「今はまだ、何とも」
ユウヤの母「主人が、まだ帰ってこないんです。近所のほかの方は、帰ってきたり、病院に運ばれてるのに、これだけ待っても帰ってこないのは……怪獣に……」
声を詰まらせる母親。
ユウヤの母「お願いです。主人を、どうか、助けてやってください……」
泣き初める母親。何もいえないでいるジョージ、マリナ。ふと目線をあげると、ユウヤが、陰からこちらを覗いている。
ジョージ 「(少年に頼もしくうなづいて見せてから母親に視線を戻し)わかりました。俺たちが、必ず……!」
マリナ 「ちょっ……(ジョージの袖を引っ張って行って母親から離れ、彼女には聞こえぬよう小声で)ちょっと!安請け合いしちゃっていいの?」
ジョージ 「(小声で)だって俺たちがやらなきゃ誰がやるんだよ」
マリナ 「(小声で)そりゃそうだけどさぁ」
メモリーディスプレイのコール音。マリナ、ユウヤの母に軽く頭を下げ、応答する。
マリナ 「はい、こちらマリナ」
サコミズ(声)「今、構造体から何かがそっちに向かって飛んでいる。サイズは推定50m大」
マリナ 「怪獣ですか?」
サコミズ(声)「恐らくは。十分警戒を……」
突然、黒い影が彼らの上空を横切り、数秒遅れて凄まじい突風が吹く!
マリナ 「キャっ!」
ジョージ 「何だっ?!」
二人が耳を押さえながら顔を上げると(ユウヤの母は顔を上げられないでいる)、巨大な鳥が羽ばたきながら降りてくる。逃げ惑う人々。
テッペイ(声)「そんなっ!もう到達するなんて!」
マリナ 「(ユウヤの母に)逃げて!(周囲を見回し、ユウヤに気がつき)君も!」
ユウヤ、ビクッと体を震わせるが、母親が心配なのか、立ちすくんだまま動けない。が、ユウヤの母、立ち上がって巨大な鳥に向かって駆け出していく。
ユウヤの母「(石を鳥に投げつけながら)帰れ!帰れ帰れ帰れ帰れ……返せ!」
鳥、ユウヤの母に向けて首を伸ばし、くちばしで摘み上げると、そのまま一呑みにしてしまう。
思わず目をそむけるマリナ。
主 婦 「(ユウヤに駆け寄ってその目を覆い)ユウヤ君!見ちゃダメ!」
ジョージ 「よくも!」
トライガーショットの引き金を引く隊員2人。発射されたビームは見事鳥に命中するが、鳥は意に介した風もない。
ジョージ 「これならどうだ!」
ジョージ、今度はトライガーショット・イエローチェンバーを選択し、高エネルギー火球を連射。全て命中するも鳥にダメージなし。しかし、注意を惹かれたのか、当初狙っていた人を放り出し、二人に向かって首を伸ばしてくる。
マリナ 「え、ウソ!こっち来る!」
ジョージ 「くらえ、くらえーッ!」
ビームを連射する2人、次々と命中するが鳥はまったくひるまない。
思わず目を瞑る2人。2秒、3秒……何もおこらない。
2人が恐る恐る目を開けてみると、鳥の首根っこを、巨大な腕がつかんで、動けなくしている。
避難民たち「ウルトラマンメビウスだ!」「ウルトラマンだ!」「がんばれ!」「頼むぞっ!」
メビウス降臨に沸く人々。
メビウス 「シェアっ!」
空中に浮いたままぐるぐると回転して、鳥を空に放り出すメビウス(柔道技の地獄車の要領)。
きりもみ回転しながら空中へ放り出される怪鳥。しかし空中で体勢を立て直す。